WORDS BY STEPHEN YU
ロサンゼルスを拠点に活躍するDominic Ciambrone(ドミニク・シャンブロン)、またの名をThe Shoe Surgeon(ザ・シューサージョン)。元靴修理職人のシューデザイナーであり、世界で最もレアなビスポークスニーカーのクリエーターだ。
そんな彼が今回、Farfetchとともにエクスクルーシブなビデオチュートリアルシリーズを製作。世界にふたつとないカスタムスニーカーをつくり上げるためにSurgeon Studiosチームや彼自身が駆使している、貴重なテクニックを伝授してくれた。
最終回の第4回は、Surgeon StudiosスクールのディレクターNeil Caro(ニール・カーロ)が、《Air Jordan》のソール交換によるカスタマイズ方法を解説。このビデオでは《Court Purple》と《Retro》のソールを交換するが、同様のテクニックはほとんどのスニーカーに使えるとのこと。ビデオを観ながら読み進めていってみよう。
FARFETCH x THE SHOE SURGEON: 第4回:Air Jordan 1のソールを交換
準備するもの
材料:
- スニーカー2足 - 一足は仕上げる靴、もう一足はソールのドナーとなる靴
- コンタクトセメント - ソールとアッパーを貼り付ける接着剤
- アセトン - ドナーソールを取り外す際に、工場で使用された接着剤を溶かすのに使用
- フェルトペン - コンタクトセメントを塗る際に、接着ラインの印をつけるのに使用
- ホースブラシ - 研磨後にソールをきれいにするのに使用
- 刷毛(約25mm) - コンタクトセメントを塗るのに使用
- スクラッチアウル - ソールのステッチをほどくのに使用
- ロータリーツール - コンタクトセメントを塗る前に、アッパーの表面とソールを研磨するのに使用(サンドペーパーでも代用可)
- ハンマー
- 裁縫用のヘラ - ソールをアッパーから剥がすのに便利
(手に入らなければ、バターナイフもしくは、マイナスドライバーで代用可能)
- クレープ(Crape Rubber Eraser) - はみ出したコンタクトセメントを取り除くのに使用する生ゴム
- フックアウル - ソールを縫いつける際に使用(www.thesurgeon.comで購入可能)
- 糸切りばさみ - ソールを縫い付けた後、余分な糸を切るのに使用
- ラスト(靴型)(www.thesurgeon.comで購入可能)
- ヒートガン
- コンベクションオーブン(ファン付き) - コンタクトセメントを硬化してさせるのに使用
ドナーソールの入手方法:
「私たちはソールのみを購入することはせず、手元にある靴から外して使います」とドミニク。「お好みのソールがあしらわれた靴を購入して、そのソールを外して使うのがおすすめ。残りのパーツは次のカスタマイズプロジェクトにとっておけます」
ソールはあらゆるスニーカーに合う?:
「すべてはラスト(靴型)次第です。付け替えたいソールにしっかりフィットするラストがあれば、ソールに合うようにアッパーを形作ることができます。やや高度なテクニックではありますが、不可能ではありません。Shoe Surgeon Shoe Schoolでは、この方法を詳しくレクチャーしています」
ドレスシューズのソールはスニーカーにも使用できる?:
「ドレスシューズのソールの種類、靴の元々の構造およびオリジナルアッパーとの接着方法によりますが、厳密に言えば可能です。ソールを接着するアッパーの形と構造が合うかどうかは必ず確認してください」
ラストの入手先:
「私たちのウェブサイト www.thesurgeon.comで、様々なスタイルをご用意しています」
ドナーシューズの準備
ソールだけ別に用意するのでなければ、まずは2足の靴を用意しよう。一足は<ドナー>で、ソールのみを使う靴。もう一足はアッパーのみを使う<レシピエント>で、ドナーソールを付ける靴となる。では、ドナーシューズからソールを取り外す方法から見ていこう。
1) ステッチをほどく
1. シューレースとインソールを外す。
2. ソールとアッパーを縫い付けているステッチの下に、スクラッチアウルを差し込んで糸を引き出す。
3. 糸がゆるんだら、引っ張ってソールから外す。
4. ステップ2と3を繰り返して、すべてのステッチを取り除く。
2) アセトンを浸透させる
1. スニーカーの中にアセトンを流し込む。靴を傾けて、内側の側面も液体にしっかり浸すこと。
アッパーのサイドを触ってみて、冷たいと感じれば十分に浸透した証拠だ。
2. 20分間放置して、アセトンを十分に浸透させる。その間に、レシピエントシューズのソールを外そう。
3) サイドウォールを緩める
1. 靴を手で押してみて、ソールが剥がれそうか確かめる。
アッパーとソールの境目の際を押してみて、ソールのサイドウォールが剥がれるようであればOK。
2. ソールが完全にアッパーから剥がれる部分を見つけて、ヘラを差し込む。
ねじる動きを加えながら、サイドウォールをアッパーから剥がしていく。
TIP:ヘラの先端は、ソールに向けずに常に靴の方向に向けよう。
レシピエントシューズの準備
次の機会まで取っておくため、《Retro》のアッパーは、アセトンではなく熱を使って外していく。
1) サイドウォールを緩める
1. ソールのサイドウォールに施されたステッチを、ドナーシューズと同じ要領でほどく。
2. マイナスドライバーとソールのサイドを同時にヒートガンで温める。ドライバーを温めると、靴の接着剤を剥がしやすくなる。
3. ソールとドライバーの両方が十分に温まったら、ソールのサイドウォールとアッパーの間にドライバーを差し込んで、
ねじる動きを加えながら、ソールのサイドウォールをアッパーから剥がしていく。
4. ソールの縁全体に沿ってドライバーを差し込んで、ねじる動きを加えながらソールのサイドウォールを
アッパーから完全に剥がす。
ソールを外す
ここまでできたら、アッパーを引っ張って、ソールから取り外していく。注意したいのは、ほどんどのソールテクノロジー(<Nike Air>や<Adidas Boost>など)が、ソールの中ほどにあること。つま先側から引っ張ると、ミッドソールとソールテクノロジーが分離してしまう恐れがあるため、踵側から始めることをおすすめする。
TIP:ソール部分が見えてきたら、片手で平らな場所にソールを押し付けて、もう片方の手でアッパーを引っ張ると
より簡単に取り外せる。
アッパーとソールのクリーニング
工場で付けられた接着剤が残っていると、新しいソールがアッパーにしっかりと付かない。まずはその接着剤をきれいに落とすことが大切。
1. ロータリーツールを使って、ソールのサイドウォール内側をきれいにする。
2. 同じようにアッパーにもロータリーツールをかけるが、この時、ストロベルボードを縫い付けている
ステッチには当たらないように注意しよう。
3. 残留している接着剤がなくなり、ソールの表面がなめらかになるまでステップ1と2を繰り返す。
4. ホースブラシで、ソールに付いたゴムや接着剤の残りかすを払い落す。
TIP:ロータリーツールがなければ紙やすりで代用できるが、時間がかかる。
ロータリーツールを安全に使うには:
「時間をかけて、低速で研磨していきましょう。手が滑っても大丈夫なように、ソールの接着剤が付いていた部分から上をマスキングテープで覆うといいですよ」
ロータリーツールと紙やすりの違い:
「ロータリーツールは、速く作業できますが慣れるまでに練習が必要かもしれません。サンドペーパーだと時間はかかりますが、よりコントロールが効きます」
ソールの接着
ソールを新しいアッパーに接着する前に、ソールのサイドウォールのトップが、アッパーのどこにくるか印をつけよう。コンタクトセメントを塗る際に、この<接着ライン>からはみ出さないようにするのが重要だ。
1) 接着ラインに印をつける
1. アッパーにラストを入れて、そのままドナーソールの上に置く。
2. フェルトペンなどを使って、ソールとアッパーの境界に沿って、ぐるりと一周、印をつける。
コンタクトセメントは、アッパーとソールを貼りつける接着剤。アッパーとソールの両方に塗ることで、よりしっかりと接着する。少量をうすく伸ばして付けていき、後で必要なら付け足していくと、きれいに仕上がる。
2) コンタクトセメントを塗る
1. ソールの中央にコンタクトセメントを付ける。
2. 刷毛を使って、サイドウォールに向けて均一に伸ばす。ソールの内側全体に行き渡るまで繰り返す。
3. アッパーも同じように、コンタクトセメントをストロベルボードの底面から接着ラインまでのばしていく。
全体にくまなく行き渡るように繰り返す。
普通の接着剤とは異なり、コンタクトセメントは熱によって効果が発揮される。しっかりと接着させるために、何らかの熱源でソールとアッパーを温めなくてはならない。
3) コンタクトセメントを硬化させる
注意:均一に加熱できるファン付きのコンベクションオーブンを使うこと。ベーキングオーブンでは靴が焦げてしまうので、使わない。
別々にしたまま、ソールとアッパーを2~3分温める。
TIP: コンベクションオーブンがない場合は、ソールとアッパーを接着する前にヒートガンでコンタクトセメントを温めて熱活性させよう。
4) ソールを接着する
1. つま先から、接着ラインにソールが到達するように、ソールをアッパーに接着していく。
2. アッパーにしっかりと接着させるために、ソールの縁を一周、ハンマーで叩く。
3. アッパーに付着したシミや、はみ出したコンタクトセメントは、クレープでふき取る。
ソールの縫い付け
ほとんどのコンタクトセメントには耐久性があり、しっかりと接着するが、外したソールのサイドウォールが元々縫い付けてあった場合は、ソール交換後に再び縫い付けることをおすすめする。フックアウルと太めの糸を使って、ソールを縫い付けていこう。縫い終わったら、余った糸を糸切りはさみで処理して、自分だけの《Nike Air Jordan 1》の完成だ。
The Shoe Surgeonとの4回にわたるビデオシリーズをお楽しみいただけただろうか。自宅でクリエイティブに過ごすきっかけになっていれば幸いだ。これまでのエピソードは以下のリンクから、ご覧いただける。
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