WORDS BY STEPHEN YU
カスタムスニーカーデザインの神様は誰か?と聞かれたら、答えはThe Shoe Surgeon(ザ・シューサージョン)ことDominic Ciambrone(ドミニク・シャンブロン)で間違いないだろう。ロサンゼルスの靴修理屋で修業を積んだ後、シューズクリエイターに転身を遂げた彼が手がけたビスポークスニーカーには、ゴールドxダイヤモンドカラーの《Nike Lebron》、《Glittery Fragment Designs x Air Jordan 1》、《Luxury Travis Scott》のスピンオフなど、アイコニックな名作が数多く挙がる。
普通なら、独学でビジネスを成功に導き、ビスポークスニーカー界のトップの座に君臨するだけで満足しそうなもの。ところがドミニクは、アメリカ各地で定期的にShoe Surgeon Shoe Schoolなるワークショップを開催。自分が長年に渡って培った技術とノウハウを参加者たちに伝授しているのだ。
そこで今回Farfetchは、「The Shoe Surgeon x Farfetch スニーカーカスタマイズスクール」と題し、The Shoe Surgeonチームとエキサイティングなコラボレーションをスタートすることに。コロナ渦で学校が閉校中のこのご時世を、少しでも楽しく過ごす一助になれば幸いだ。
Farfetch限定の同ビデオシリーズでは、The Shoe Surgeonチームのエキスパートが5つの主要なテクニックを紹介。記念すべき第1回は、ドミニクがカスタマイズスニーカーの世界でレジェンドとして知られるきっかけとなった、Nikeのアイコニックな《Air Force 1》を分解する。
「初めて靴をカスタマイズしたのは高校生の時。オールホワイトの《Air Force 1 mid》を、プラモデル用のペイントとエアブラシを使ってカモフラージュ柄に塗り替えました。それからは、レザーや素材にもっと合う耐久性のあるペイントを必死になって探しましたよ。縫製した初の一足は、スネーク柄の生地を縫い付けた《Air Jordan 4》。分解して再構築した初アイテムは、ホワイトの《Air Force 1 mid》でした」――ドミニク・シャンブロン、The Shoe Surgeon
自分だけのスニーカーをデザインする方法を学ぶことには、大きな見返りがあるとドミニクは言う。
実際のところ、現在のスニーカーカルチャーの王道は、気前よく大金をつぎ込み、世界に一足しか存在しないカスタムスニーカーを持つことだ。次々に発表されるスニーカーのラインアップを念入りに吟味し、懲りずに何度も抽選に申し込んでは定価の何倍もの値段を払うなんてこともざらにある。しかしそれに比べてカスタマイズなら、ナイキiDのデザイン制限に落胆することもなければ、ローンチカレンダーに翻弄されることも、期待外れのコラボレーションアイテムに失望することもない。その代りにあるのは、2、3時間集中して創造力を働かせるだけで、自分が欲しいデザインを自分の欲しい時にゲットできるという大きなメリットだ。再リリース禁止カラーのスウッシュが欲しければ自分でペイントすればいいし、Louis Vuitton x Converseのコラボスニーカーが欲しければ自分でつくればいい。ただ、ドミニク自身にとってシューズのカスタマイズには、それ以上の意味があるようだ。
「シャイで物静かな高校生だった頃、靴をカスタマイズすることで自分自身を表現していました。スニーカーが友達との会話のきっかけになったりしてね。スニーカーは建築物と同じ立体的なオブジェクト。リバースエンジニアリングや新手でユニークな手法を駆使して創造性を発揮する手段としていたんです」
自らの経験を踏まえ、ドミニクはシューズのカスタマイズが単に自分の地位を高めるためのスキルであるだけでなく、自身のクリエイティビティに飛び込んでいく貴重な術になり得ると信じている。確かに、OG(発売当初のオリジナルモデル)配色を再現したり、夢のようなコラボレーションを期待したりするよりも、自分自身のスニーカーをデザインすることの方が、よりクリエイティブにスニーカーカルチャーに関われる方法だと言えなくもない。
ありがたいことに、昨今ネット上には「Shoe Surgeon x Farfetch」のビデオシリーズを始めたくさんの関連情報が溢れているが、ネット上の情報など皆無だった世代のドミニクには、靴修理人の手元を見ながら直接ノウハウや技術を学ぶ以外に方法はなかったようだ。
「スニーカーをいちから制作する方法を知るための情報源がなかったので、ハイクオリティのビスポークウェスタンブーツを制作するApple Cobbler(アップル・コブラ―)のMichael Anthony(マイケル・アンソニー)に師事しました。彼のクラフトに対しての情熱に感化されて、自分もスニーカーで同じことをやりたいと強く思いましたね。Louboutinの靴や財布の修理、RedwingやWesoブーツの修理や造詣についてはThe Cobbler(ザ・コブラ―)ことDaryl Fazio(ダリル・ファジオ)から習得し、伝統的な靴づくりにおいてはBonney and Wills Shoemaking ShcoolでBill Shanor(ビル・シェイナー)から学びました」
ニットスニーカーの登場以前、スニーカーのテンプレートは数十年、靴に至っては数百年もの間ほとんど変化することなく受け継がれてきた。つまり、長い間靴修理人によって継承されてきた伝統と技術は、今日存在するスニーカーのほぼすべてに利用できるということ。しかしその数百年の歴史を誇る伝統的な職人技と靴づくりの解剖学を駆使しつつも、ドミニクは常に新しいことにチャレンジし続けている。
「我々は常に、プロジェクトに使用するための新しい素材をテストし、開発しています。今まで誰も試していない新しい手法を考え出したり、限界に挑戦することが楽しい。最近では、ブラジル産の植物の葉を用いて“(ヴィーガン)レザー”を開発しました。テクノロジーを駆使して、サステナブルで効果的にものづくりをしていきたい。FUNCTION OVER DESIGN(デザインよりも機能性)だと思っています」
ファッション業界が及ぼす環境への影響が取りざたされる中、スニーカーをカスタマイズすることは環境破壊の悪循環をストップできるだろうか。ドミニクのワークショップとFarfetchとのビデオシリーズの目的は、次なるTinker Hatfield(ティンカー・ハットフィールド)やSteven Smith(スティーブン・スミス)(注:共にシューデザイナー)を生み出すことでも、新バージョンの《Air Jordan 1》をローンチすることでもない。ただ単に、ドミニク自身がそうだったように、自身のアイデンティティーを築くためのクリエイティブなツールを習得して欲しいという願いが込められているのだ。
「私の最終的なゴールは、人々が何かをつくることを通して、自身のメンタリティをより良い状態へと持っていくこと。スニーカーのカスタマイズにしろ、他のクラフトにしろ、情熱をもって自分の手で何かをつくり上げると幸福感が得られるんです。僕自身もそうでしたからね」
カスタマイズ初心者へ、ドミニクからのアドバイス
ビデオシリーズの第1回リリースに向けて、動画から最大限のメリットを得るためのアドバイスをドミニク本人に聞いた。
どこからインスピレーションを得れば?
私の場合は、自分が見たもの、触ったもの、聞いたもの、味や匂いなど自分の感覚を刺激するものからです。
不可欠なツールとテクニックは?
必要なツールとテクニックはカスタマイズのタイプによってまったく違いますが、形を整える靴型と、基礎をつくるソールはシューメーキングにおいて欠かせないツールです。
初心者にとってカスタマイズしやすいスニーカーは?
パネルやパーツが少なくて構成がシンプルな、《Air Force 1》や《Stan Smith》から始めるのがいいと思います。テクニックを試すエリアがたくさんある《Air Jordan 1》もおすすめ。
初めて挑戦する人向けの一番簡単なカスタマイズテクニックは?
分解と再構築のプロセスにはたくさんのステップがあり、その一つひとつがとても重要なのですが、一番簡単なテクニックは、考えすぎずに、とりあえず楽しんでやってみること。
初心者におすすめの素材は?
複雑でデリケートな素材より扱いやすい、滑らかなレザー。
初心者がワークショップでやりがちなミスは?
靴を制作するために、どれほどの工程と段階があるかを理解すること自体が最初は難しいと思います。重要なのは、工程を信じて忍耐強く少しずつ作業をこなすこと。集中して、一度にひとつのスタイルだけに取り組むことです。練習を重ねれば腕はどんどん上がります。
持っているスニーカーをカスタマイズする一番簡単な方法は?
ペイントすることから始めて、その後、糊や染料を使って色々と試してみるのがいいと思います。
カスタマイズにおいて気をつけるべきことは?
怖がらずに新しいテクニックに挑戦すること。すべてのパーツを完璧につくり上げようとこだわらないこと。クリエイティブに、楽しく取り組むことが大切です。
スニーカーではなく普通の靴をカスタマイズした人たちへのアドバイスは。
靴に合った靴型を見つけること!
ドミニクのアドバイスを胸に、今後6回にわたってお届けするThe Shoe Surgeonのビデオシリーズをどうぞお楽しみに。Surgeon Studiosチームのスタッフがエピソードごとに披露してくれる、貴重なカスタマイズテクニックをお見逃しなく。