テキスト:Aguri Kawashima
シャープなテーラリングに、シルバーのひんやりとした質感。一見するとソリッドで硬質なムードなのに、そこにアットホームなつくり手の感覚が共存するのが、ニューヨーク発のブランド、Peter Do(ピーター ドゥ)だ。立ち上げからわずか3年にもかかわらず、人気セレクトショップがこぞって買付け、モードなファッション・フリークたちも虜にしているという、新進気鋭の同ブランドにフォーカスする。
Who is ピーター・ドゥ?
デザイナーのピーター・ドゥは、ベトナム出身のアジア系アメリカ人。デザイナー本人の顔は非公開となっている。14歳のときに渡米し、ニューヨーク州立ファッション工科大学に進学。2014年にはファッションスクールで学ぶ最終学年の学生を対象にした、LVMHの「グラデュエート・プライズ」を受賞した。その後、同賞受賞の特典として、モダンでクリーンな新しい女性像を打ち出し一世を風靡していたフィービー・ファイロが率いるCeline(セリーヌ)で、ランウェイコレクションの制作に従事。ニューヨークに戻りDerek Lam(デレク・ラム)で経験を積んだ後、2019年春夏シーズンにピーター ドゥを立ち上げた。
クリエイションとアティチュード
クリエイションの特徴は、素肌を美しく見せるカットアウトや、スペーサー(Spacer)と呼ばれる自身で開発したトランスペアレントな素材づかい。そこに重ねられる直線的でモダンなテーラリングが、全体の印象をよりストイックで強いものにしている。また、毎シーズン「問題解決」をテーマに設定し、デザイン性の高い服に見られる着心地の悪さにもアプローチ。実用性も探求している。強くモダンに構築された服だけれど、デザイナーが目指すのはあくまで日常着。そんな肩の力の抜けたアティチュードもブランドの魅力のひとつだろう。
若くてアットホームなチーム
ピーター ドゥの魅力は、セリーヌで積んだ経験とあわせて語られるような美しい洋服だけに留まらない。ミレニアル世代らしく、チームメンバーの多くがインターネットやSNSを通じた出会いに始まっているのも特徴だ。メンバー全員が30歳前後という若いチームは、友人らが集まって結成されており、ブランドセールス担当のヴィンセントとは、当時ピーターが制作過程をアップしていた画像投稿SNS、タンブラー(Tumblr)で知り合ったのだそう。ブランドの顔として働くPR担当、ジェシカのインスタも人気だ。友人同士で一緒に働いている感覚に近いとデザイナーのピーターは語る。
デザイナー自らSNSで発信
ブランド公式インスタグラムでは、制作の舞台裏を発信。コメント欄は、ハイブランドらしからぬハートの絵文字と、ファンからの愛溢れるコメントでいっぱい。チームがコレクションに関して語る、リラックスしたライブ配信も人気だ。
またコロナ禍においては、チームのユニフォームでもあるオリジナルの「スペーサーラボコート」抽選キャンペーンを実施。ニューヨークのアジア系アメリカ人のビジネスオーナーたちが主宰する、有色人種サポート団体、#Enoughisenoughへの寄付を応募の資格とした。こういった迅速なアクションが可能な背景には、デザイナー自らがインスタグラムアカウントを運営しているということも大きいだろう。こうした投稿を発信することで透明性を高く保ち、通常のハイブランドのイメージとは違った、アットホームなムードがファンに伝わっている。
「優しさと相互尊重に根ざしたブランドづくりに取り組むことで、常に家族を第一に考えてきました」(ブランド公式プロフィール)とあるように、あなたもピーター ドゥの洋服を身に着れば、家族の一員だ。優しく、自信に満ち溢れたムードに包まれてみよう。
シルバーのメタルがあしらわれたレザーのコンバットブーツは、シグニチャーとも言える人気アイテムで、シーズン毎に素材やカラーを変えてリリースされている。ボリューム感とクールなスクエアトゥが、ボトムスのシルエットを現代的にアップデートしてくれる逸品。
メタルのアクセサリー類も、ブランドらしさが際立つ人気アイテム。このカードケースは、もともとはチームのオフィス用IDカード入れとしてつくられたものなんだそう。デイリーコーディネートにアクセサリー感覚で取り入れることができるアイテムだ。
2021春夏コレクションでは、ブランドらしいレザー素材に加え、柔らかな素材を多くフィーチャーしている。美しいシルエットのハイウエストパンツは、リブ編みのウエストディテールがはき心地とデザイン性の高さを両立。
商品の製造を、拠点であるニューヨークで行っているのも同ブランドの特徴だ。